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神経を残す治療(MTAセメント)

深いむし歯でも、神経が元気なら残せる場合があります。残しやすいときと、難しいときの進め方をお伝えします。

①「神経を残す」とは、何をすることか

顔を出した神経を、薬で覆って守る治療です。
神経が元気な歯が対象です。

深いむし歯を取ったあと、顔を出した神経の上を薬で覆い、その上に詰め物をした歯の断面図
神経の近くまで進んでも、残せる場合があります

深いむし歯を削ると、歯の中の神経(歯髄)が顔を出すことがあります。

神経を取るのが「根の治療」、薬で覆って守るのが覆髄(ふくずい)です。

神経を残すメリット

神経を取る根の治療と比べて、次のような良い点があります。

  • 歯に栄養と水分が届き続け、もろくなりにくいとされる
  • 冷たい・痛いなどの感覚が残り、異変に気づきやすい
  • 根の治療のように歯の内側を削らずに済み、歯の壁を厚いまま保てる
  • 通院の回数が少なくて済むことがある

ただし、神経を残せるのは神経が元気なときです。
炎症が進んでいる場合は、あとで根の治療が必要になることがあります [1]。

②MTAセメントとは

神経を覆う薬の一つです。
従来の水酸化カルシウムより、神経を残せた割合が高いと報告されています。

歯の断面図。上から詰め物、MTAセメント、その下に新しくできる硬い壁、神経(歯髄)の順に重なり、それぞれに名前の札が付いている
神経の表面に、硬い壁ができるのを助けます

ケイ酸カルシウムが主成分のセメントで、神経の表面に硬い組織の壁ができるのを助けるとされています [1]。

従来の薬(水酸化カルシウム)との差

水酸化カルシウムは、MTAより失敗が約2.5倍起きやすいと報告されています [2]。

別の分析も同じ結果で、研究のばらつきが大きいため、確かさはまだ低いとされています [3]。

神経を覆う治療(直接覆髄)で、神経が残った割合

神経が残った83%

神経が残った痛みなどで根の治療に進んだ

33研究(永久歯)のまとめで、成功率は83%(79〜87%) [4]。当院の成績ではありません。

似た新しいセメント(バイオデンティンなど)は、MTAと差がないとされています [2]。

③残せる歯、残せない歯

痛みの出方と、削ったときの出血の止まり方で判断します。

残せる見込みが高い歯と、残すのが難しい歯の断面図。神経の色と根の先の影の有無が違う
残せるかどうかは、神経の状態で決まります

残せるかは、材料より神経の状態で決まります [1]。

残せる見込みが高いサイン

  • しみても、すぐ治まる
  • 何もしないときは痛まない
  • 根の先に影がない
  • 出血が数分で止まる [5]

残すのが難しいサイン

  • 夜にずきずき痛む、鎮痛剤が要る
  • 温かいもので痛みが続く
  • 出血が止まらない、膿が出る
  • 根の先に影があり、神経が死んでいる

症状が強くても、神経の上部だけを取って残せたという報告があります [5]。根の治療に進む可能性も含めてご説明します。

その歯にとって、根の治療に進むほうが長持ちする場合もあります。診断の結果は、ありのままお伝えします。

④治療の流れと、そのあとに起きること

唾液を遮断し、止血してMTAで覆い、早めに詰めます。
歯の色が変わることがあるため、前歯では材料をご相談します。

神経を残す治療の6つの段階のアイコン:診断、ゴムのシート、むし歯を取る、薬で覆う、詰める、経過を見る
覆ってから、早めに詰めて、経過を見ます

MTAで神経を覆う治療の流れ

  1. 診断症状を聞き、冷たい刺激への反応とレントゲンで神経の状態を調べます。
  2. 麻酔とラバーダムゴムのシートで歯を囲い、唾液の細菌が入らないようにします。
  3. むし歯を取る神経に近い部分は、取りすぎないように慎重に削ります。
  4. 止血神経が顔を出したら、出血の止まり方を確かめます。ここで残せるかを判断します。
  5. MTAで覆う神経の上にMTAを置き、固まるのを待ちます。
  6. 詰め物・かぶせ物すき間から細菌が入らないよう、できるだけ早く最終の修復をします。
  7. 経過観察数か月〜数年、症状とレントゲンで神経が元気かを確かめます。
指針[1]と研究[4][6]をもとにした一般的な流れ。回数や間隔は歯の状態で変わります。

成功を左右するもの

唾液を入れない(ラバーダム)ことと [4]、最終の修復を早く済ませることで成績が良くなります [6]。

歯の色が変わることがある

MTAの造影剤で、歯が灰色がかって見えることがあります(ある分析で83%) [5]。前歯では材料をご相談します。

あとで痛みが出たときも、根の治療に切り替えて歯を残す道があります。

⑤むし歯を取りきらない選択(神経を出さないために)

神経に近いむし歯をあえて残し、神経が顔を出すのを避ける方法もあります。

奥歯の断面の模型。周りのむし歯は取り、神経に近い底にだけ薄い茶色の層を残して、その上を白い詰め物でふさいでいる
神経に近い部分は、あえて残すことがあります
抜いた歯を縦に切った断面。むし歯が象牙質の中を神経の近くまで進んでいる
神経の近くまで進んだ、深いむし歯の断面

神経が顔を出していなければ、軟らかい部分を少し残してふたをする方法があります [1][7]。

  • 神経が顔を出すのを防ぎやすい [7][8]
  • 上に置く薬はMTAが良いとする報告がある [9]
  • 詰め物の持ちが短くなる可能性もあり、経過を見ていく [8]

精密な詰め物(ダイレクトボンディング)

削る量を抑えやすい、樹脂を直接盛るダイレクトボンディングを行うことがあります。

参考文献(9件)
  1. European Society of Endodontology (ESE), Duncan HF, Galler KM, et al. European Society of Endodontology position statement: Management of deep caries and the exposed pulp. Int Endod J. 2019;52(7):923-934.PMID: 30664240
  2. Komora P, Vámos O, Gede N, et al. Comparison of bioactive material failure rates in vital pulp treatment of permanent matured teeth - a systematic review and network meta-analysis. Sci Rep. 2024;14(1):18421.PMID: 39117767
  3. Hatipoğlu Ö, Varlı Tekingür E, Pertek Hatipoğlu F. Comparative clinical success of direct pulp capping materials: A network meta-regression of randomized clinical trials. J Dent. 2025;162:106073.PMID: 40886932
  4. Prasertsuksom N, et al. Treatment Outcomes and Prognostic Factors of Direct Pulp Capping in Permanent Teeth: A Systematic Review and Meta-Analysis. Eur Endod J. 2024;9(4):295-307.PMID: 39523694
  5. Coll JA, Dhar V, Guelmann M, et al. Vital Pulp Therapy in Permanent Teeth: A Systematic Review and Meta-Analyses. Pediatr Dent. 2025;47(3):137-150.PMID: 40533920
  6. Gomez-Sosa JF, Granone-Ricella M, Rosciano-Alvarez M, et al. Determining Factors in the Success of Direct Pulp Capping: A Systematic Review. J Contemp Dent Pract. 2024;25(4):392-401.PMID: 38956856
  7. Ramezanzade S, Bjørndal L, Chen H, Baysan A. Effectiveness of Stepwise Excavation or Selective Excavation in Comparison with Non-Selective Caries Removal in Managing Deep Caries in Vital Permanent Teeth: A Systematic Review with Trial Sequential, Pairwise, and Network Meta-Analyses. Caries Res. 2025;60(1):80-109.PMID: 40188822
  8. Aldakhil S, Mubarak M, BaHammam F, Vasconcellos A. Effectiveness of selective, non-selective, and stepwise caries removal techniques in permanent teeth: An umbrella review of systematic reviews and meta-analyses. J Dent. 2026;173:106844.PMID: 42309376
  9. BaHammam F, Aldakhil S, Akhil J, Whitworth J. Pulp Response to Materials Used in the Management of Deep Carious Lesions Without Pulp Exposure: A Systematic Review and Network Meta-Analysis. Int Endod J. 2025;59(3):351-371.PMID: 41321278
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