①「最初の1,000日」という考え方
妊娠から2歳までの環境が、その後の健康の土台になるという考え方です。

妊娠から2歳までの約1,000日の環境は、大人になってからの心臓病や糖尿病のなりやすさにも関わるとされます。これがDOHaD(ドーハッド)仮説です [1]。
お口の健康も、1,000日の中にある
むし歯の菌は親から子へうつります。妊娠前にご自身のお口を整えることは、そのままお子さんの最初の予防になります [1]。
妊娠前から体とお口を整えるこうした取り組みを、プレコンセプションケアと呼びます [1]。
②妊娠中の歯ぐきの健康と、早産との関係
重い歯周病の妊婦さんは、早産・低体重児出産が多いという報告があります。
関係の強さには研究で幅があり、歯ぐきを整えておくことは安心につながる準備のひとつです。

1996年の米国の研究では、重い歯周病の妊婦さんは早産・低体重児出産の割合が約7.5倍と報告されました [2]。
これは124人の小さな研究で、多くの研究をまとめた2013年のレビューでは、関係は「あるが控えめ」とされています [3]。必要以上に心配せず、できることから整えていきましょう。
妊娠中の歯周病と出産の関係:研究でどこまでわかっているか
はっきりしていること
- 歯周病のある妊婦さんは、早産・低体重児出産が多い傾向がある [3]
- 歯周病は妊娠前から整えられる、自分で変えられる要因である [1]
まだはっきりしないこと
- 関係の強さ(7.5倍という数字は、小さな古い研究のもの)[2][3]
- 妊娠してから歯周病を治療すると、早産が減るかどうか [4]
歯ぐきのケアは、妊娠前から始めると安心
2017年のコクランレビューでは、妊娠中の歯周病の治療で早産が減るかは、まだはっきりしないとされました [4]。低体重児出産は減る可能性がありますが、確かさはまだ低いとされます [4]。
歯ぐきは時間をかけて落ち着いていくため、妊娠前から歯ぐきを整えておくことがすすめられています [1]。
③妊娠中に、お口の環境が変わりやすい理由
赤ちゃんに栄養をとられるからではなく、つわり・食事の小分け・ホルモンによる変化です。
理由がわかれば、工夫で守れます。

「赤ちゃんにカルシウムをとられて歯が弱くなる」という心配はいりません。変わるのはお口の環境なので、ケアの工夫で守れます。
- つわりの時期は、歯ブラシを入れるのがつらくなりがち
- 食事が小分けになり、お口に食べものが残る時間が長くなる
- ホルモンの影響で、歯ぐきが腫れたり出血したりしやすくなる(妊娠性歯肉炎)
つわりの時期も、無理なく続ける工夫
- 気分のよい時間に磨く。夕方や寝る前の1回からでも
- ヘッドの小さい歯ブラシで、前かがみに、奥から手前へ
- 香りがつらいときは歯みがき粉なしで。洗口液で補う
- つらい日は、水やお茶でゆすぐだけでも大丈夫
- 吐いたあとは、すぐ磨かずにまず水でゆすいで歯を守る
治療・レントゲン・お薬は、産科の主治医と連携しながら、歯科医師と相談して進めます。治療は安定期に行うことが多いですが、痛みや腫れはいつでも気軽にご相談ください。
④妊娠前・妊娠中にできること
妊娠を考え始めたら、検査と治療を済ませておくと安心です。
妊娠中は、無理のない範囲でお口を清潔に保ちましょう。

妊娠前から出産までの、お口のケアの流れ
- 妊娠を考え始めたら歯科で検査を受け、むし歯と歯ぐきの状態を確かめます。治療が必要なら妊娠前に済ませておくと、妊娠中を安心して過ごせます。
- 妊娠がわかったら産科の主治医に伝えたうえで、歯科にもご連絡ください。つわりの時期に合う、無理のない磨き方を一緒に考えます。
- 安定期(妊娠中期)歯石取りや、必要な治療を行いやすい時期です。母子健康手帳の歯科健診もこの頃に。
- 出産前の最後の確認出産後は忙しくなるので、いまのうちにお口を整えておきましょう。むし歯の菌を減らしておくことが、お子さんへの予防になります。
パートナーも一緒に
むし歯の菌は、お子さんと接するご家族からもうつることがあります。パートナーやご家族も一緒にお口を整えると、家族みんなで赤ちゃんの歯を守れます。
プレコンセプションケアは、性別を問わず取り組める健康管理です [1]。
⑤妊娠中の歯科治療
何週まで? 麻酔・レントゲンは?
妊娠中も歯の治療は受けられます。
通いやすいのは安定期で、必要な麻酔やレントゲンも安心して受けられるとされています。
何週ごろが通いやすいか
つわりが落ち着く妊娠中期(16〜27週ごろ)が通いやすい時期です。13〜21週に治療を受けた351人の試験で、流産や早産は増えませんでした [6]。
後期はあおむけがつらくなりやすいので、体調に合わせて進めます。痛みや腫れは、週数を問わず早めにご相談ください。
麻酔は使えますか
局所麻酔を妊娠中に受けた210人の研究で、大きな先天異常の割合に差はありませんでした [7]。
レントゲンは大丈夫ですか
おなかの赤ちゃんに届く量は、模型での測定で一般の人の1年の上限の1%未満でした [8]。撮影は、必要なものに絞って行います。
- 妊娠週数と、産科で言われていることを伝える
- 母子健康手帳を持参する
- 飲み薬は、産科の主治医と相談しながら必要なものを選ぶ
Q&A
参考文献(8件)
- 仲井(永原)幸恵「妊娠1000日」日本歯科新聞 第362号(2026年2月10日)。DOHaD仮説、WHO・UNICEFの「最初の1,000日」、PPP(Axelsson 1988)、MS菌の定着を2歳まで遅らせる意義、妊娠成立後の歯周治療では歯周組織がすぐには改善しないこと、プレコンセプションケア
- Offenbacher S, Katz V, Fertik G, et al. Periodontal infection as a possible risk factor for preterm low birth weight. J Periodontol. 1996;67(10 Suppl):1103-13.PMID: 8910829
- Ide M, Papapanou PN. Epidemiology of association between maternal periodontal disease and adverse pregnancy outcomes--systematic review. J Clin Periodontol. 2013;40 Suppl 14:S181-94.PMID: 23627328
- Iheozor-Ejiofor Z, Middleton P, Esposito M, Glenny AM. Treating periodontal disease for preventing adverse birth outcomes in pregnant women. Cochrane Database Syst Rev. 2017;6(6):CD005297.PMID: 28605006
- Kamei-Nagata C, Omori K, Sako H, et al. Periodontitis associated with Porphyromonas gingivalis infection is a risk factor for infertility through uterine hypertrophy. Sci Rep. 2025;15(1):34964.PMID: 41057450
- Michalowicz BS, DiAngelis AJ, Novak MJ, et al. Examining the safety of dental treatment in pregnant women. J Am Dent Assoc. 2008;139(6):685-95.(無作為化試験。妊娠13〜21週に必要な歯科治療を受けた351人で、流産・早産・先天異常などの増加なし。局所麻酔の使用も関連なし)PMID: 18519992
- Hagai A, Diav-Citrin O, Shechtman S, Ornoy A. Pregnancy outcome after in utero exposure to local anesthetics as part of dental treatment: A prospective comparative cohort study. J Am Dent Assoc. 2015;146(8):572-80.(歯科の局所麻酔を受けた妊婦210人と794人の比較。大きな先天異常 4.8% 対 3.3% で有意差なし)PMID: 26227642
- Kelaranta A, Ekholm M, Toroi P, Kortesniemi M. Radiation exposure to foetus and breasts from dental X-ray examinations: effect of lead shields. Dentomaxillofac Radiol. 2016;45(1):20150095.(人体模型での測定。胎児の線量は鉛の防護なしでも一般公衆の年間線量限度 1mSv の1%未満)PMID: 26313308

