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白い布の上に置かれた、文字の無い古い金属の歯みがき粉の缶と、木の柄の古い歯ブラシ、小さなガラスの水差しの静物。博物館の展示のような雰囲気で、窓からのやわらかな自然光

フッ素と、むし歯の減少

むし歯予防にフッ素が使われるようになったきっかけは、アメリカの山あいの町の「茶色い歯」でした。歯が茶色くなる人たちは、不思議なことに、むし歯が少なかったのです。

①むし歯が減った理由は、歯みがきの「中身」にもある

むし歯予防にフッ素が使われるきっかけは、アメリカの町の「茶色い歯」でした。
歯みがき粉に入るまで、100年の話です。

白い布の上に置かれた、文字の無い古い金属の歯みがき粉の缶と、木の柄の古い歯ブラシ、小さなガラスの水差しの静物。博物館の展示のような雰囲気で、窓からのやわらかな自然光
むし歯が減った理由の一つは、歯みがき粉の「中身」が変わったこと(イメージ)

日本の歯みがき粉には、戦後、むし歯を防ぐための工夫が次々と加えられました。酸の発生を抑える成分や、歯の質を強くするためのフッ素化合物です[1]。

今では、フッ素(フッ化物)入りの歯みがき粉はごく当たり前のものです。けれど、その始まりは「むし歯の薬を探す」研究ではありませんでした。

始まりは、歯が茶色くなる町

発端は、アメリカの山あいの町で見つかった、茶色い斑点のある歯。この「茶色い歯」の謎を追ううちに、水に含まれる少量のフッ素がむし歯を防ぐことが分かってきたのです[6][7]。

②コロラドの謎
茶色い歯と、むし歯の少なさ

水のフッ素が多すぎると歯に斑点が出る。
一方で、むし歯は少ない。
ディーンの調査が、その関係を明らかにしました。

山あいの町を思わせる、古い石積みの壁に付いた真鍮の水道の蛇口から澄んだ水が流れ、下に白いほうろうのコップ。背景に遠い山並みと明るい空。人物はいない
コロラドの町の飲み水に、謎を解く鍵がありました(イメージ)
白い机の上に置かれた古い真鍮の顕微鏡と、ガラスの標本瓶に入った歯の模型、数枚のガラスの標本。研究室の静物。窓からの自然光
水のフッ素の濃さと歯を、町ごとに調べる研究が続きました(イメージ)

20世紀の初め、コロラド州の歯科医マッケイは、町の人の歯に茶色い斑点が多いことに気づきました[4][7]。

のちに、原因は飲み水に含まれるフッ素が多すぎることだと分かりました。斑点のある歯は「斑状歯(はんじょうし)」と呼ばれます[2][4]。火山地帯の水で起こる斑状歯には、本書も触れています[1]。

斑点はあるのに、むし歯が少ない

1930年代、アメリカ公衆衛生局のディーンは、各地の水のフッ素の濃さと斑状歯の関係を調べました[2]。すると、フッ素が多い町の子どもほどむし歯が少ないという傾向が見えてきたのです[3]。

町の水源を変えると、斑状歯が出なくなることも確かめられました[4]。こうして、次の問いが生まれました。斑点を出さずに、むし歯だけを防ぐ濃さはあるのか。

1945年、グランドラピッズ

1945年、ミシガン州グランドラピッズで、水道水にごく薄くフッ素を加える世界で初めての試みが始まりました[8]。近くの町と比べる、10年がかりの調査です。

10年後の1956年、ディーンらは子どものむし歯が大きく減ったと報告しました[5]。ここから水道水へのフッ化物添加が、各国に広がっていきます[6][7]。

コロラドの謎から水道水へ:1901年から1956年まで

年できごと
1901年マッケイがコロラドの「茶色い歯」に気づく
1931年原因は水に含まれるフッ素と判明
1936〜38年ディーンが各地の水の濃さと歯を調べる
1945年グランドラピッズで水道水に添加を開始
1956年10年の結果を報告
年はディーンらの原著(1936・1938・1939・1956)と歴史の論文(Carstairs 2015、Kargul 2003)による。1901年・1931年は一般の事典の記述で、公開前に別資料で照合します。

③歯みがきの中のフッ素
世界と日本

1970年代以降、フッ素入り歯みがき粉が広まりました。
日本では水道水に加えず、歯みがき粉・洗口・塗布で使います。

水道水のあと、フッ素は歯みがき粉に入りました。研究では、1975年ごろを境にフッ素入りの歯みがき粉が広く使われるようになったとされます[8][9]。

96の研究を集めた2019年の系統的レビューでは、フッ素入りの歯みがき粉はフッ素なしに比べてむし歯を減らしたと報告されています[10]。これは研究の数字で、効果の大きさは人によって違います。

水道水の効果は、小さく見えるようになった

歯みがき粉が広まると、水道水の効果は昔ほど大きく見えなくなりました。2024年の系統的レビューは、1975年以降の研究では効果は小さい可能性があるとしています[9]。

日本では

日本では、水道水へのフッ化物添加は行われていません[11]。代わりに、歯みがき粉のほか、学校でのフッ化物洗口(フッ素の液でうがいをすること)、歯科医院での塗布が中心です[11][12]。

2023年には4つの学会が合同で、年齢ごとの歯みがき粉の濃さと量の目安を示しました[13]。

日本で使われているフッ化物の3つの形

  1. 歯みがき粉毎日、家で。年齢ごとに濃さと量の目安があります
  2. フッ化物洗口学校や家で、フッ素の液でうがいをします
  3. 歯科での塗布濃いものを、歯科医院で定期的に塗ります
日本口腔衛生学会ほか4学会合同の推奨(2023)と Komiyama ら(2013)による。濃さや回数は年齢やむし歯のなりやすさで異なります。歯科医師・歯科衛生士にご相談ください。

④今の予防ではこうなっています

フッ素は、口の中に存在し続けることで働きます。
歯みがき・食生活・定期検診とセットで使う、道具の一つです。

明るい洗面台の上に置かれた、文字の無い白い歯みがき粉のチューブと、淡い緑の柄の歯ブラシ、白いコップ。白いタイルと観葉植物、自然光
今のフッ素は、毎日の歯みがき粉の中に。歯みがき・食生活・検診とセットで

かつては「歯が作られる時期に体に取り込まれないと効かない」と考えられていました。今は、口の中に存在し続けることで、日々の「溶ける・戻る」の場面で働くと理解されています。

だから、毎日の歯みがき粉に意味があります。フッ素の働き方の詳しい話は、一般歯科の記事「フッ素の本当の働き方」でご覧ください。

道具の一つとして

フッ素は魔法の薬ではなく、むし歯を防ぐ道具の一つです。歯みがきで汚れ(歯垢)を減らし、甘いものの回数を見直し、定期的な検診で早く見つける。その組み合わせが、今の予防です。

当院の予防歯科・メンテナンスの進め方は、下の診療ページでご覧ください。年齢に合ったフッ素の使い方は、ご相談ください。

参考文献(13件)
  1. 長谷川正康『歯科の歴史おもしろ読本』クインテッセンス出版、1992年。第I部 第2章「日本人は歯磨きとどう関わってきたか」(戦後の歯磨剤へのフッ素化合物の配合)、第II部 第7章「古くて新しい審美歯科」(火山地帯の飲料水による斑状歯)
  2. Dean HT, Elvove E. Some epidemiological aspects of chronic endemic dental fluorosis. Am J Public Health Nations Health. 1936;26(6):567-75.PMID: 18014440
  3. Dean HT. Endemic fluorosis and its relation to dental caries. Public Health Rep. 1938;53(33):1443-52.(再録:Public Health Rep. 2006;121 Suppl 1:213-9)PMID: 16550781
  4. Dean HT, McKay FS. Production of mottled enamel halted by a change in common water supply. Am J Public Health Nations Health. 1939;29(6):590-6.PMID: 18015049
  5. Arnold FA, Dean HT, Jay P, Knutson JW. Effect of fluoridated public water supplies on dental caries prevalence. Public Health Rep. 1956;71(7):652-8.(グランドラピッズの10年の結果)PMID: 13370780
  6. Carstairs C. Debating water fluoridation before Dr. Strangelove. Am J Public Health. 2015;105(8):1559-69.PMID: 26066938
  7. Kargul B, Caglar E, Tanboga I. History of water fluoridation. J Clin Pediatr Dent. 2003;27(3):213-7.PMID: 12739679
  8. Iheozor-Ejiofor Z, Worthington HV, Walsh T, et al. Water fluoridation for the prevention of dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2015;(6):CD010856.PMID: 26092033
  9. Iheozor-Ejiofor Z, Walsh T, Lewis SR, et al. Water fluoridation for the prevention of dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2024;10(10):CD010856.PMID: 39362658
  10. Walsh T, Worthington HV, Glenny AM, Marinho VC, Jeroncic A. Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. Cochrane Database Syst Rev. 2019;3(3):CD007868.PMID: 30829399
  11. Komiyama K, Kimoto K, Taura K, Sakai O. National survey on school-based fluoride mouth-rinsing programme in Japan: regional spread conditions from preschool to junior high school in 2010. Int Dent J. 2013;64(3):127-37.PMID: 24256345
  12. Matsuyama Y, Aida J, Taura K, et al. School-based fluoride mouth-rinse program dissemination associated with decreasing dental caries inequalities between Japanese prefectures: an ecological study. J Epidemiol. 2016;26(11):563-571.PMID: 27108752
  13. 日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会「4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」(2023年1月)
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