①「歯周病」という名前は、まだ100歳あまり
「歯周病」と名付けられたのは1922年ごろ。
歯ぐきの病気は古代からあり、長く「歯槽膿漏」と呼ばれていました。

歯ぐきの病気は、とても古くからあります。古代の人の頭蓋骨にも歯周病の痕跡があります[1]。
紀元前1300年ごろには、アスクレピアスという人物が口の清掃を説いたと伝えられています[1]。「口をきれいに」という考えは、3000年以上前からあったのです。
「歯槽膿漏」から「歯周病」へ
日本で長く使われた「歯槽膿漏(しそうのうろう)」は、膿が出るという症状を指す言葉です。「歯周病」に変わるまでには、多くの人の試行錯誤がありました[1]。
②歯ぐきの病気を、初めて詳しく書いた人
1746年、フランスのフォシャールが症状と治療を初めて詳しく記しました。
その中に「歯石を取る」もありました。

初めて詳しく記録したのは、フランスの歯科医フォシャール。1746年の『外科歯科医』第2版です[1][2]。
体のどこにも病気がないのに、歯ぐきと骨と歯が侵される。歯ぐきを押すと白く粘る膿が出る。前歯のほうがかかりやすい。彼はそう書き残しました[1]。
当時の治療法
フォシャールの治療は、下の4つ。今では行われないものもありますが、歯石を取る発想は、すでにこのときからあったのです[1]。
フォシャールの歯ぐきの治療(1746年):当時の方法
- 動揺した歯を抜くぐらぐらになった歯は抜いていました
- 指で膿を押し出す毎食後に歯ぐきを押して、膿を出すよう勧めました
- ブドウ酒と水でうがい口をすすぐことで清潔に保とうとしました
- 歯石を取る歯に付いた歯石を取り除く。今の治療にも続く発想です
ヨーロッパでは、この病気が長く「フォシャール病」と呼ばれました[1]。
骨が減っていくことを、図にした人
1806年、フォックスが、歯を支える骨(歯槽骨)が減っていくようすを図で示しました。原因には歯石・体質・衛生状態・皮膚病を挙げています[1]。
ただし治療は、瀉血(しゃけつ。血を抜く当時の治療)と下剤でした。原因の見方は進んでも、治療はまだ手探りでした[1]。
③原因を探した人、名前を付けた人
1847年の微生物説、1875年のリッグスの治療を経て、1922年ごろ「歯周病」の名が付きました。

1847年、ドレスデンのフィシナスが「微生物が歯ぐきの下に入って歯石を作る」と唱えました。歯周病の微生物説の始まりです[1]。
20世紀初頭にはアメーバを原因とする説(バース説)も出ましたが、誤りでした[1]。1896年、W.D.ミラーは、体質・歯石や歯垢・細菌を総合して判断すべきだと述べています[1]。
アメリカのリッグスと、6本組のスケーラー
アメリカでは、リッグス(1811〜1885)が1875年にこの病気を報告し、「リッグス病」と呼ばれました。笑気麻酔のウェルズに協力した人でもあります[1]。
治療は、6本組のスケーラー(歯石を取る器具)で歯ぐきの溝の奥の歯石を取り、根の面を磨くこと。今の歯周基本治療と同じ考え方です[1]。
「歯周組織」という見方
1920年ごろ、ゴットリーブが組織学の研究で、歯を囲む組織の変化を明らかにしました[1]。
1922年ごろ、ベルリンのヴェスキーは「歯槽膿漏は、膿が出るという症状の一部しか表していない」と考えました。歯根膜・セメント質・歯槽骨・歯ぐきを一つの組織(歯周組織)と捉え、「パラデントーゼ(歯周病)」と名付けたのです[1]。
歯周治療の歩み:1746年から1975年まで
| 年 | できごと |
|---|---|
| 1746年 | フォシャールが症状と治療を詳しく記す |
| 1806年 | フォックスが骨の吸収を図解 |
| 1847年 | フィシナスの微生物説 |
| 1875年 | リッグスが歯石を取り、根の面を磨く治療を報告 |
| 1896年 | ミラーが体質・歯石・細菌を総合して判断 |
| 1922年 | ヴェスキーが「歯周病」と命名 |
| 1975年 | 日本で「歯周病学会」が独立 |
日本では
日本では1957年に「日本歯槽膿漏学会」が発足。1968年ごろから用語が「歯周病」に変わり、1975年に「歯周病学会」として独立しました[1]。
④今の治療ではこうなっています
原因は歯にすみつく細菌のかたまり。
器具で取り除くという基本は、リッグスの時代から変わっていません。

今では、歯周病の主な原因は、歯や歯ぐきの溝にすみつく細菌のかたまり(バイオフィルム)だと考えられています。フィシナスの微生物説は、形を変えて今に続いています。
治療の基本は、歯石やバイオフィルムを器具で取り除き、根の面を滑らかにすること。6本組のスケーラーは、今は歯科衛生士のトレーに並ぶ器具へ姿を変えました。
「膿を出す」から「ためない」へ
長いあいだ、治療は膿が出てからのものでした。今は、症状が出る前に歯石やバイオフィルムを定期的に取り除く予防とメンテナンスが中心です。
当院の予防歯科・メンテナンスの進め方は、下の診療ページでご覧ください。気になることがあれば、ご相談ください。
参考文献(2件)
- 長谷川正康『歯科の歴史おもしろ読本』クインテッセンス出版、1992年。第II部 第5章「歯周治療の発展に貢献した人々」(p.155-161)
- フォシャール(Pierre Fauchard)『外科歯科医(Le Chirurgien Dentiste)』第2版、1746年(上記 [1] が引く一次資料)
